FEAR FROM THE HATE「1961」リリースインタビュー
デビューEP「Cursed Screamers For All The Frozen Tears」、1stアルバム「Birthday of 12 Questions」までの彼らの軌跡を辿りながら、「1961」を大まかに捉えれば、今作は計り知れない未来と希望を垣間見ることができるアルバムとなっている。
あくまでも個人的な感想だが、この作品はFEAR FROM THE HATEの前作までの路線と、グラムロック、そしてJ-POPの延長線上にある遠い交点に漂う正体不明な惑星のような気がする。それくらい全体像として捉えるのが困難だが、一度遊泳してみればかなりツボにハマる。イく。完全にイっちゃう。ポップさ、キャッチーさは前作より完全に群を抜いており、ユニークな感触が相当増えた印象だ。
ジャンルレスな方向性を探るバンドの性(サガ)と宿命、それは、作品を創作する過程において、一般人には理解できないサウンドになる可能性があることだ。スクリーモからラウドポップ、そして今作では前人未到の地へ到達した彼ら。
この作品が現代のリスナーと評論家、その他の同様のシーンで活躍するバンドマンたちから正当に評価されることがあるのだろうか?FEAR FROM THE HATEは常に「挑戦」を怠らないバンドであることは確かだ。その確固たる証拠が今作であり、果たしてどこまで受け入れられるのかは、はっきり言って全く定かではない。
そのシーンに属しているバンドは、常にセールスとライブの動員に目を奪われ、元々自分達がどういった方向性のバンドであったか、目標としているものは何だったのか、見失うことが多い場合もある。安直に「シーンの音楽」をライトタッチで舐め、ポーザー気味のインスタントなサウンドに流れることは多々あるし、それがトリックに満ちた「足ががり」的なものの場合もある。
それでもリスナーと取り巻き達はきっと付いて来るだろう。所詮、音楽とはそういうものだ。しかし、バンドが多かれ少なかれ挑戦することをやめた時、待ち受ける未来がどんな未来かを知っているバンドがどれくらいいるのか?
前述を踏まえつつ、少なくとも今作「1961」は、前作から一年以上のブランクを経たFEAR FROM THE HATEにとって相当な覚悟と、明確な自信に満ち溢れた作品だと断言できるものとなっている。それだけネクストステップを意識したものであるとともに、日本の音楽シーンにとても重要な「何か」を残してくれたものであると感じる。
今回はフロントマンの小島慶之に話を聞いた。
取材・文 / 佐藤文宣
2人とも運命的なものを感じましたね
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──はじめにメンバーの紹介をお願いします。
・ボーカルの小島慶之、ギター&プログラミングが河原耕一。そして新しく加入したベースの村上宗平とドラムの吉川修です。
──新しく加入したお二人の経緯、経歴等を教えてください。
・ベースの宗平は、彼が19歳の時にフィンランドのバンドのオーディションを受けに行って、その後無事加入して3年ほど首都のヘルシンキに住んで活動していました。最初の頃は英語も殆ど喋れなかった。住むとこも特に決めずに飛行機に乗ったみたいで、家が見つかるまでメンバーの家を渡り歩いたりハングリー精神が鍛えられる経験をたくさんしたらしいんですよ。で、その話を初めて聞
かされた時、「こんなロックな奴なかなかいねー!」と思って。(笑) コイツはいいなって。
で、彼が加入した経緯は、俺と元メンバーでギターだったYu-taro (現A Ghost of Flare)がBarで飲んでいるとき、たまたまそこにいた宗平に話掛けたのがきっかけです。ちょうどその時宗平は加入するバンドを探してて、僕等もベースを探してる時で意気投合したのと、何より驚いたのは僕等が新しいベーシストを募集する前に、SCREAM OUT FEST 2012で彼はその時初めて僕等のライブを見たらしく、その瞬間に「FFTHでプレイしてみたい」と既に思っていたらしいんです。彼がFFTHに加入した今、日本はもちろん海外、特にフィンランドでプレイする彼の姿を早く見せてやりたいですね。
そしてドラムの吉川は、以前メジャーで活動していた経験があり、バンド解散後はドラムサポートとしての活動を幅広いジャンルでこなしていて、その他にも作詞、作曲、プログラミング、アレンジ、プロデュース等手掛けたり、最近はDJとしても活動してたりするとんでもマルチプレイヤーです(笑)。出会った経緯はというと、僕等の共通の知り合いの方から紹介されたのがきっかけです。この出会いも奇跡的で、その共通の知り合いの方が、吉川に「FEAR FROM THE HATEというバンドがドラムを探してるみたいで誰か良いドラマー吉川さん知ってますか?」と聞いた時、彼は即座に「誰かを紹介するくらいなら俺がそのバンドやるよ」と返答したらしいんです。
というのも、その話を彼が聞かされるちょうど一週間前くらいに吉川がその時プロデュースを手掛けていたバンドがFFTHのPVを見せて「こういうバンドがやりたいんです」と勧めて下さったらしく、その時始めて彼は僕等の事を知って「カッコいいバンドだなぁ」と思ってくれたらしいんですよね。で、そのすぐ後にFFTHがドラマー募集してるって話を聞かされるっていう。2人とも運命
的なものを感じましたね。
日本人にもっと馴染みやすい普遍的なロックサウンドにより近付いた
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──今回のメンバーチェンジが今作「1961」にどういった作用をもたらしたか、ざっくりと教えてください。
・「1961」の原曲自体は新メンバーが加入する以前から出来ていたので、サウンドの方向性はほぼ変わりませんでしたが、「1961」を聴けばわかる通り、最近の洋楽の流れを忠実に組んだ流行りのサウンドというよりも、日本人にもっと馴染みやすい普遍的なロックサウンドにより近付いたので、この作品を出すならもっとロックバンドとしての意識がメンバー個々に要求されるなと思ってて。
じゃないとそれこそ上辺だけの薄っぺらな音楽になっちゃうから。だからそれまでFFTHには無かった他のフィールドで活動していた新たな音楽的ルーツを持った2人が入った事により、新しい音楽を表現出来る幅と深みが拡がり説得力も増したと思います。
今回のテーマとしてはストレートにダサカッコよさを狙っています
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──前作「Birthday of 12 Questions」では、既存のスクリーモやポストハードコア的なアプローチはあるものの、全体的にFFTH独特の雰囲気と個性溢れる展開がとても印象的でした。「1961」では楽曲を作る際に何かテーマのようなものはありましたか?
・とにかく、バンドとして新しいことをしたかったんです。前作はラウドなサウンドからその先のFFTHのサウンドへと進む転換点として作っていたので、次回作の楽曲自体の方向性・ビジョンはだいぶ前から固まっていました。
そしてもっと自分達のルーツを出していこうという思いがありましたね。今まで、へヴィな要素を軸にエッセンスとなっていたFFTHらしさともいえる部分、音使いだったり曲の雰囲気やコード感だったりするんですが、その部分が前面に出てきたことで結果として歌のメロディが楽曲の中心となりました。歌を中心にした曲作りを意識したことで各楽器の音は適材適所的なアレンジになっています。
ギターが一本となったので、シンセの比重は以前よりも増えていますね。イケイケなシンセサウンドとは違うアプローチをしているので、同じエレクトロサウンドでもだいぶ雰囲気が変わっていると思います。今回は製作期間が曲作りも入れると一年ほどありました。デモの段階から何十回も作り直して吟味したフレーズが入っているので、聞き込むほどに色々な発見があると思います。
前作までわりとシリアスな空気感の曲が多かったのですが、今回のテーマとしてはストレートにダサカッコよさを狙っています。楽曲はかなりギリギリなラインでいきつつ、裏で鳴っているのはオシャレなコード、みたいな感じですね。なので、初めて曲を聴いた人に「何だこれ!?」と思わせられたらこの作品は成功といえます(笑)。
これまでよりもはるかに凝縮した「FFTH流ロック」を上手く表現出来た
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──前作を知っているファンにとっては、「Birthday of 12 Questions」の延長線上にある作風を期待してるファンもいると思います。「1961」においては、ある意味そのテーゼを打ち破った感があります。コンセプトアルバムとして、今作ではどういったアプローチを心がけましたか?
・今まで僕等は激しく重いメタリックな音に派手なシンセを乗せた、ここ日本で今流行りのいわゆるピコリーモと呼ばれたジャンルの先駆者と呼ばれてきました。そのピコリーモと呼ばれる事に対して意識した事はほとんど無いんですが、常に何かを開拓する先駆け的存在であることには誇りを持ってて、だからこそ今作は今までと同じようなお手本通りのピコリーモというサウンドを僕等はやっちゃいけないような気がしたんです。
未知の境地である「宇宙」というテーマに乗せて、歌詞もサウンドも新しい事への挑戦という意味で中途半端じゃなく大胆に変えたかった。確かに一聴すればポップになって丸くなったと思われるかもしれないけど、内容的にはこれまでよりもはるかに濃く凝縮した「FFTH流ロック」を上手く表現出来たと思うし。
もちろんもっともっと幅広いリスナーの方々に聴いてもらいたかったのもありますけど、これまでのラウドファンはもちろん、ギターロックだったりポップだったりお互いのフィールドの中には素晴らしいアーティストの方々はたくさんいるわけで。そういった違うジャンルのアーティストの方々に触れられる架け橋的存在になれればいいなと思って創ったのもあります。
「ラウド、スクリーモ出身でもここまでやれるぜ!」的な。いわゆるロキノン系だったりその他大勢の色々なバンドさんやファンの方々ともどんどん関係を拡げて築き上げていきたいし。なのでFFTHを本当の意味で理解してくれてる人は今回の作品も理解して頂けると思います。
全ての曲に宇宙に関連する言葉を入れてみました。
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──歌詞には隠喩やメタファー等を多く引用しており、非常にユニークさを感じました。何か狙った部分はありますか?
・歌詞を気にする人と気にしない人もちろん両方いると思うんですけど、気にしない人は多いと思うんですよ。僕等のジャンルだったりすると英詞だったり叫んでたりしたら尚更何言ってるかわかりにくい。それを否定するわけじゃないけど、詞を書くなら少しでもいいから何かリスナーの耳に残したいなと思って。まして今作は歌メロを大事にした曲ばかりだし。
とにかくありきたりな言葉や内容になるのを極力避け、表面だけ明るく前向きな事を無責任に言いっ放しにするでもなく、かといってただ絶望だとか悲観するわけでもなく、形式ばった堅い詞だったり飾ったような書き方をわざと崩して軽い感じにしてみたり、こういう言い回しの方が面白いよなとか、どうしたらリスナーの注意を惹きつけられるか、どうしたら心に引っかかってくれるのか、その一心で考えに考えてじっくり書き上げました。
それと一応「宇宙」がテーマとしてあるので全ての曲に宇宙に関連する言葉を入れてみました。そこら辺も意識して聴くと新たな見方を発見出来ると思いますよ。
──次の作品も、楽曲の方向性としては「1961」の延長線上にあるものと考えるべきでしょうか?それとも「1961」はコンセプトアルバムということで、実験的な作品であると捉えるべきでしょうか?
・両方ですね。次作への延長線であるかもしれないし実験的でもあります。もしかしたらバンド史上最も激しく重い楽曲を創るかもしれないし、それかもっと別の要素を取り入れたようなものにも挑戦するかもしれません。
スパイダーズ(Spiders)をスパイ(Spy)にして「火星からのスパイ」にしてやろうと(笑)
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──「スパイフロムマーズ」の歌詞にはデビッド・ボウイが登場します。デビッドボウイは「ジギー・スターダスト」において、「異端者」や「エイリアン」的なものを題材にしていたと思われます。70年代のグラムロックムーヴメントを含め、「スパイフロムマーズ」の意味も踏まえて、今作におけるバンドの音楽的な背景や、影響を受けたアーティストを教えてください。
・「スパイフロムマーズ」は、最初に耕一から火星を題材にしたテーマにして欲しいと言われて、火星=MARS=マーズじゃないですか。そこで僕(小島)が影響を受けたデビッド・ボウイがジギースターダストをプレイしたときのバックバンドが「スパイダーズフロムマーズ」って名前だったんですよ。
ミック・ロンソンがギターで。なら、スパイダーズ(Spiders)をスパイ(Spy)にして「火星からのスパイ」にしてやろうと(笑)。今のキッズ達はグラムロック自体をほとんど知らないだろうし、僕もリアルタイムではないけど、大好きなTHE YELLOW MONKEYさんや清春さんからデビッドボウイやT-REXみたいな70'sグラムロックを知ったので。正にロックスター!って感じでめちゃくちゃ憧れてて。それで今回の「宇宙」というテーマは非現実空間でもあるから、そういうロックスターをオマージュしたような事も表現したかったんです。
それにバンドのコンセプトの新しい要素として、耕一の中でクラシックなロックのイメージを感じさせたいな、というのがあったらしいんですよね。その上で、現代のシンセ・エレクトロサウンドが乗っかっているという感覚です。ヴィンテージの机と椅子に腰掛けてMacbookを使ってるみたいな。僕等の作曲スタイルはまずボーカルメロ以外のオケを耕一が作って、その上に僕がボーカルメロを作って完成させるというものなんですが、主な作曲者である耕一の音楽のルーツとして60~80年代のロック・ポップスと現在のハウス・クラブミュージックを彼はずっと聞いてきたらしいんです。宇宙感とダンスミュージックに関しては、Jamiroquaiなんかも彼に影響を与えてますね。ダンスとファンク、ジャズの要素をロックでコズミックなサウンドに乗せているという、耕一のルーツ、好きなものが全部入ってるアーティストですね。
──各曲のコンセプトをざっくりと教えてください。
1. Chapter Ⅰ - Departure -
曲 : 宇宙をテーマにするうえで、アルバム一枚で映画のような世界観を作りたかったんですよ。そこで、各曲と同時進行でひとつの物語が進んでいくというアイデアから、これらインタールードが生まれました。
2. 地球とデート
歌詞 : 人と人との付き合いでトラブルや悩みは尽きなく、俺達は1人なんだなと感じたりする事があるけど、それでも関係無く地球は全員を乗せながら今日も回り続けて寄り添い付き合ってくれてる。地球が僕等に全てを与えてくれるいわば恋人だと仮定して、そんな地球に対して僕等は何をお返してあげられるのか?という事を歌った曲。
曲 : ギターの王道ロックリフとスペーシーな四つ打ちダンスサウンドがベースになっています。どこか古めかしい香りがしつつもダブステップみたいな新しい要素も入っていて、バキバキなシンセベースとちょっと懐かしいエレピの音のギャップなんかも面白いかなと思います。
3. スパイフロムマーズ
歌詞 : 地球人の1人の男を火星人目線で観察した曲。たとえどんな立場の人間になったとしても不安や苦悩があるのは誰でも同じという事に気付いた彼はどう進んでいくのか。
曲 : 未来の高層ビル群の間を駆け抜けていくような曲です。今よりちょっと前、90年代のころから見た近未来のイメージですね。音使いなんかも変わっていて、怪しい雰囲気のコード進行を多用しています。前曲とこの曲ができたことで、宇宙という今回のテーマはほぼ固まりました。
4. SPACE SHOW TIME
歌詞 : 「宇宙」という劇場で「地球」という舞台で「僕等」というキャラクターで今まさにショータイムが行なわれてるんです。何百億年の中の十数年というわずかな上映時間で。
曲 : 疾走するド直球なハードロックと小洒落たエレクトロサウンドを軸に作りました。デモができたときは自分でも「うわダセエ!」と思いましたね(笑)。サビの音使いとかもひねくれた感じにしてます。ライブを意識した曲なので、頭から終わりまでドライブ感ある曲になっています。
5. 夢ミタイ
歌詞 : 夢を持つ全ての人達へのアンセム。厳しい現実と向き合いながらそれでも戦い続ける勇者たちへ。
曲 : コミカルな曲調が多い1961の中でこの曲は「夢」というシリアスなテーマを持っています。「夢」というもののもつ光っている部分、暗い部分を真正面から描きたかったので、歌のバックでは儚げでいてキレイなメロディが鳴っている様に心がけました。
6. ルーレットガール
歌詞 : 僕等なりのロックンロールソング。たくさんいる男達の中から女は気に入った人を選んでついていく。それを無数に並んだルーレットのマスの周りを一つの玉が転がってハマっていく様に例えました。だからマスの方は玉の気を惹こうと必死だぞと(笑)。でも最終的には口を開けて選んでくれるのを待つ事しか出来ない。人類の永遠のテーマ、男と女について歌いつつも、人間・人生についても歌っています。
曲 : いままでのFFTHのイメージを完全に破壊しようという気持ちで作りました。アッパーなトランペット、シャッフルビートにブリブリのシンセが絡み、バンドサウンドは王道ロックという新しい要素を全てぶち込んでいます。
──個人的な感触として、今作はある意味狙った感のある「ダサかっこよさ」と、センシティブでロマンティックな、「恋愛的」な側面、そして絶妙な「エロス」を、広大な宇宙に昇華していると感じました。全曲が完全にポップな唄モノとして成立してる反面、FFTHらしい「アクの強さ」も同時に出ており、非常にバランスの取れた作品だと思います。メンバーの恋愛事情も含め、そして今作を踏まえながら、次回作のざっくりとした構想を教えてください。
・恋愛事情ですか(笑)?ご想像にお任せしたいですけど、多分みんながイメージしてるようなのとは逆だと思いますよ(笑)。いや~もちろん遊びたいですけどね(笑)。今回は「ポップで突き抜ける」ことをテーマにしていたので、ヘヴィな要素は息を潜めていましたが、次回作ではまた違ったアプローチでのヘヴィさを打ち出していきたいですね。
今作を作ったことで、ある意味なんでもありなスタート地点に立てたと思うんで、いろいろな音楽要素を取り入れて新しい音楽へと挑戦していきたいです。僕等の音楽を定義するとすれば今までには無い「革新的で面白い音楽」を探求し創り続ける事なので、まだまだ楽曲でやりたい事はたくさんあるし、とにかく次回作もさらに面白い作品を作る事を約束します。「1961」もまたこれまでと同様に一つの側面にしか過ぎないと思っているので。
全ての音楽ファンの皆様、FEAR FROM THE HATEというバンドはこれからもやらかし続けますので期待していて下さい!!!